屋外作業のすすめ
今年も課題は終わらなかった。なんだかなあ~。提出物を出さない悪い習慣は小学生の頃に始まり、今なお続いている。あ、幼稚園生の頃にプール教室をバックレたことがあったっけ。
「怠惰」成分が僕を占める割合はとても大きい。部屋を見渡すとそこには弾かなくなったギター、読まないC言語教本、完全一面が完成したルービックキューブなどなど…。
それがアイデンティティになり得るんじゃないか、という危険な思考が最近芽を出したが、根っこから引き抜いてやった。僕は絶対に認めないし、社会人になってもこんな体たらくだったらと思うとぞっとする。
第一、僕は怠惰ではあるが、怠惰を打開しようとする努力はきっと人一倍している。怠惰界ではかなり上位の位置づけをされるはずだ。下の上、みたいな。
その努力の一環として、「こんな自分がきちんと課題を期限内に終わらせられるような方法の案」を今までにいくつか考え付いて、実際に試すことも多かった。作業用の音楽には本当にいろいろなジャンルのものを試したし、30分あぐらをかいて瞑想をしてからデスクに座ることもやってみたし。その他にも、「指定したページまで進めないとトイレに行けない勉強法」とか。
その案のなかに、有力だと思われるも実行をためらっているものがあって、それが「屋外作業」だった。僕は休日は基本的に外出しないが、それは人が苦手だという理由からで、外の空気自体は大好きなのだ。人通りの少ない住宅街や、森林公園の散歩も年に二回ほどする。だから、屋外で勉強すると捗るのでは…?という構想はかなり前から持っていた。屋外といってもスタバやマックではなく、木の多い公園でやろう。そう思っていた。
しかし、なかなか実行には移せなかった。どの公園のどのベンチで行うか決めることがだるいし、椅子はベンチでいいとして、机は別途用意する必要がある。先述のような行動力のなさを持つ僕に、そんなことができるだろうか(いいや、できない)。作業をするための準備すら面倒くさいとなっては、本末転倒だ。
しかし、いま、高2の夏休みが終わり、受験の意識がだんだんと高まってくる。そして、涼しい日が増えてくる時期でもある。屋外勉強、試すには今しかない!決心して、Amazonでキャンプ用のアルミ製の二つ折りテーブルを購入したのが先週の木曜日だ。
そしておととい、青チャートと佐川急便から受け取ったテーブルを手に、近所の公園へ足を運んだ。すれ違った人たちからアタッシュケースより二回りほど大きな見た目をしたテーブルへ注がれる視線を感じながら、公園の奥の方にある、目的の広場に到着。下調べの際に決めた、絶好の場所だった。
ベンチに腰掛け、準備の段階を見られたらなんか恥ずかしいので、周囲に人がいないことを確認する。おもむろにテーブルを開き、設営。ノートと問題集をテーブルに置き、開く!ペンを持って、準備完了。
順調に問題を解き進めていき、顔を上げれば木々の群れ、地面は砂利!!思い切り息を吸って、限界まで吐いた。
ものすごく奇妙で爽快な感覚。ずっと窮屈だと思っていた勉強を、こんなにも自由な環境で行っている、という感覚!!イヤホンを持ってきていたが、BGMは蝉の声と風でそよいだ木々の葉がこすれる音だけで十分だった。
ああ、これが"正解"だ。大学受験をするその日まで、僕はこのベンチに通い続けるだろう。
………最初の10分は本気でそう思っていたが、さすがに飽きてくる。蝉、うるさい。しかもここ、ふつうの道路の10倍多く蚊がいて、血液型O型の僕はやたら刺される。虫よけスプレーなど、まるで意味を成さない。スプレーをかけていない服の中に迷わず入り込んできて厄介な箇所を刺されて、むしろ逆効果だ。はぁ~あ。
休日だと多少人がいるもんで、時々僕の前を通っていく。ほぼ飽きかけていた僕は途中から、通行人に対して「こんな場所で勉強しちゃうんですよ、僕w」という見栄を張ることだけを考えて勉強していた。人がいないときはスマホをいじり、人が来たら勉強をしているポーズをとる。
そんなくだらないことをしているうちに、辺りは暗くなってきた。日没の時刻がだんだん早まってきている。電灯は近くになく、問題集も見にくくなりつつあったので、5時半くらいにはテーブルを畳み始めた。
蚊が最も活発に活動する時間帯は、夕方から夜間にかけてだと言われている。左手に3.4kgのテーブルを持ったまま、右手で体中を掻きながら帰り道を歩いた。少しして、右手に持ち替えて、また少しして、左手に持ち替えた。
そのとき考えていたことは、左手のテーブルに残された使い道だった。