トパッス寓話 “とーぱちゃん と ぱーすくん”
これは、海をずっと越えた先の、遠い遠い島おはなし…。そこに住んでいるいきものたちは、その島を、「トドン島」と呼ぶようです。
トドン島に、とーぱちゃんという栗の妖精がおりました。とーぱちゃんはとても優しい妖精で、トドン島のみんなから慕われていました。
「とーぱちゃん、ありがとう。」と感謝されることの多いとーぱちゃんですが、そのとき返す言葉は、いつも決まっていました。
「わたしは、わたしのしたいように、しただけよ。」
これが、とーぱちゃんの口癖でした。とーぱちゃんは、人のために何かをすることが本当に大好きだったのです。
ある日、とーぱちゃんがドルオタのクーマくんに全く興味のないアイドルのライブに誘われたところ、とーぱちゃんはそれを快く引き受けて、メンバーの名前やコールの仕方などを完璧に予習し、当日に大きな声を出してクーマくんと一緒に思い切り楽しむ、ということがありました。
その様子を見ていたサカナくんは、一連のとーぱちゃんの行動をまとめてトゥートしました。とーぱちゃんの優しさは大きな反響を呼び、やがて、そのトゥートのブースト数は200を超えました。
とーぱちゃんを賞賛するコメントが、インターネット上に溢れました。ねとらぼはとーぱちゃんへのインタビュー記事を書き、ZIP!はとーぱちゃんを午前5:50から10分間特集しました。
そこでもやっぱり、とーぱちゃんはいつもと同じことを言うのでした。
「わたしは、わたしのしたいように、しただけよ。」
ねとらぼの記事は拡散され、トドン島に住む毛の妖精のぱーすくんの目にも留まりました。
ぱーすくんは超のつくほどのうっかり屋さんで、よく物を落として壊したり、不用意なことを言って人を傷つけたりするので、たくさんの人に嫌われていました。
そんなぱーすくんは、その記事を見てひらめきました。
「これなら、ぼくも人気者になれるかもしれないぞ。」
その次の日、ぱーすくんは手始めにパン屋からチョココロネを盗みました。そして、八百屋さんの大根を丸かじりし、クレーンゲームのガラスを粉砕してぬいぐるみをすべて取り出したのち、食べまくりました。
止めに入ったサラリーマンを馬乗りになってぶん殴り、すき家へ行き、無料でもらえるテイクアウト用の割り箸を全部持って帰りました。
そして、ぱーすくんは、現行犯で逮捕されました。ぱーすくんの犯した悪行はみるみるうちに広まり、トドン島のみんなから嫌われるようになってしまいました。
刑務所の冷たい空気のなか、固いベッドの上で、ぱーすくんはぽつりと呟きました。
「ぼくは、ぼくのしたいように、しただけなのになあ。」
〜おわり〜